3/17に行いました、予算審査特別委員会総括質問解説です。
国会における予算委員会に相当する総括質問は、一問一答型の真剣勝負。予算審査の天王山です。
今回は、板橋区政の本質課題「ジェントリフィケーション」についての質疑を解説します。


なぜ今、「ジェントリフィケーション」なのか

今回の予算審議は、今後10年間の板橋区の方向性を定める新たな基本構想・基本計画のもとで行われる、特別な重みを持つ予算審議です。その中で私が真っ先に取り上げたのが、「ジェントリフィケーション」という問題です。

ジェントリフィケーション(gentrification)とは、地域の高級化に伴い、もともと住んでいた住民が経済的に住み続けられなくなり、実質的に追い出されていく現象のことです。1964年にイギリスの社会学者ルース・グラスが提唱した概念で、ロンドン・ニューヨーク・パリなどの世界的大都市で長年議論されてきましたが、今や東京・板橋区でも現実の問題として現れてきています。

昨年(令和7年)12月の第4回定例会の一般質問でこのテーマを取り上げたところ、東京新聞で大きく取り上げていただきました。「板橋区議会でジェントリフィケーションが議論された」ということ自体に、住民の関心が寄せられていると感じています。今回の予算委員会では、さらに踏み込んだ議論を行いました。


板橋区の地価・家賃は今どうなっているか

まず現実を直視するための数字を確認しましょう。

2025年の板橋区の基準地価平均は69万9,500円/㎡で、前年からの変動率は+9.12%の上昇です。住宅地平均は52万8,105円/㎡(+7.88%)、商業地平均は95万円/㎡(+10.94%)と、特に商業地の上昇が目立っています(参考:tochidai.info)。

また、2025年の地価動向として、都心区の旺盛な上昇傾向が、隣接する城北・城東エリアにも波及しているという分析が出ています。板橋区はまさにその波及先のひとつです。

日本総研の分析(東京に迫る「ジェントリフィケーション」問題)によれば、東京圏では年収1,000万円を超える高所得層が160万人を超え、共働き高収入世帯や高度外国人材が都心の住宅需要を押し上げています。その結果、中低所得層は郊外への居住を余儀なくされ、かつて多様な所得層が混在していた地域が富裕層向けに変容していくという構造が生まれています。

身近な例として、板橋区内のあるマンションで中国人オーナーが家賃を大幅に引き上げようとした騒動もありました(弁護士JPニュース)。こうした事例も、「住み続ける権利」が脅かされる時代が来ていることを示しています。


質問①:板橋区職員の区内在住率は何パーセントか

ジェントリフィケーションの影響が、区民だけでなく区職員にまで及んでいることを示すため、まず事実確認の質問から始めました。

私の質問: 板橋区の職員のうち、板橋区内に在住している職員は何パーセントか。

総務部長の答弁:

令和8年3月1日現在の区内在住職員の割合は、常勤の正規職員は37.9%、再任用・フルタイム勤務職員は40.4%、再任用短時間勤務職員は53.9%で、合計で38.4%が区内在住職員。会計年度任用職員の区内在住割合は68.7%。

38.4%——4割を切っている。 この数字は、改めて聞いても衝撃が大きいです。区民に最も近いところで働くべき区職員の6割以上が、板橋区の外に住んでいるということを意味します。

もちろん、職員個人を責めるつもりは毛頭ありません。問題は、「住みたいと思っても住めない」という状況が生まれていることそのものです。住民と同じ感覚を持って業務に取り組むためにも、職員が区内に住めないという現実は、区政の質という観点からも憂慮すべきことです。


質問②:「住み続けられなくなること」を区の問題として認識するか

次に、核心の問いを投げかけました。

私の質問: 地域の質が向上した結果として、既存住民が経済的に住めなくなり、区職員も住めなくなっている。このことを区として「問題」として認識しているか。それとも、これは住民・職員個人の問題であって、行政が介入すべき問題ではないとお考えか。

政策経営部長の答弁:

地域の質の向上は、住みたい・住み続けたいと思えるまちとなるため、区政の伸張発展に欠かせないものである。その中で、住み続けたいと思う方が住み続けられないということは憂慮すべきことであると考えている。ただし背景には様々な要素が作用しており、各種施策を展開しながら、住み続けたいと望む方々が安心して暮らせる区政を進めることが区の役割と責務。

「憂慮すべき」という言葉を答弁として引き出すことができました。これは重要な一歩です。行政が「住み続けられなくなること」を個人の問題として片付けず、「行政として向き合うべき問題」として認識したことを、公式の議事録に残すことができました。


質問③:区長自身の答弁を——経済的条件なくして「住み続けたいまち」は実現できない

さらに踏み込み、区長自身への答弁を求めました(結果的に政策経営部長が代答)。

第4回定例会での区長の答弁を確認しつつ、この問いを重ねました。

板橋区は生活のまちであり、過度な経済至上主義とは一線を画し、住みやすいまちづくりを進めることで税収を得て、それを住民に還元する——それが板橋区のあり方ではないか。(中妻の問い)

新たな基本構想では、将来像として「誰もが幸せを実感しているつながりと愛着が育まれているまち」としている。住みたい・住み続けたいと思える持続可能なまちの実現に向けた思いが込められている。(4定での区長答弁)

これを踏まえ、「住み続けたいと思っても家賃上昇によって経済的に住み続けられなくなる住民が現に存在するとき、それは仕方がないで済まされるのか。住民の経済的条件を踏まえることなくして、住み続けたいまちは実現できない」と問いました。

政策経営部長の答弁:

家賃上昇への直接的対応は難しいが、経済的な問題など、背景にある課題を的確に把握しながら、暮らしやすいまちに向けて区として対応すべき事柄を見極め、区の役割をしっかりと果たしていく責務がある。

区長からの直接答弁は得られませんでしたが、「難しいけれど何もしないでいいわけではない」という認識の共有には至りました。


質問④:東京都のアフォーダブル住宅政策——板橋区はどう連携するか

この問題への具体的な動きとして、東京都のアフォーダブル住宅政策を取り上げました。

東京都は2025年、「官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド」を創設し、都が100億円を出資、民間からも100億円以上を集め、総額200億円以上を投じて手頃な家賃の賃貸住宅を供給する計画を打ち出しました(参考:日経xtech)。2025年11月には、①SMBC信託銀行・萬富、②野村不動産・野村不動産投資顧問、③ヤモリ・三菱UFJ信託銀行、④LivEQuality・大家さん・りそな不動産投資顧問・マックスリアルティーの4グループを運営事業者候補として選定。2026年度から家賃が市場価格の約8割程度の住宅を約350戸供給する計画です(2026年2月に当初の約300戸から上方修正)。

これはまさに東京都がジェントリフィケーション対策に正式に乗り出したことを意味します。板橋区としてこの動きに連携・補完する必要があると考えます。

私の質問: 東京都のアフォーダブル住宅政策に対して、板橋区として連携・補完していく検討はされているか。

都市整備部長の答弁:

アフォーダブル住宅は、東京都と民間の共同出資による官民連携ファンドで住宅供給を促進する取組と認識している。運営事業者が選定されたことは把握しているが、具体的な住宅供給の促進策については今後検討と聞いている。まずは東京都に対して情報提供を求め、連携手法を確認していく。区独自施策として、子育て世帯を対象にリフォーム・住み替えを支援し、区内の手頃な価格帯の既存住宅の有効活用などに取り組む。

東京都の計画が具体化してから情報収集、というやや受け身の姿勢は否めません。板橋区が積極的に情報を取りに行き、東京都の計画を板橋区の区域に引き込むよう働きかけることが必要です。


今後の問題提起

今後、板橋区内の地価・家賃はさらに上昇し続ける可能性が高いです。区内某所に建設が始まったマンションの最上階部屋が2億円ともいわれる——これはもはや私の知っている板橋区ではありません。

このまま放置すれば、かつて多様な人々が共存していた板橋区のコミュニティが、経済力によって分断されていくことになります。板橋区の最大の強みは「温かく、ぬくもりのある、困っている人を放っておかない住民性」です。この強みは、決して経済的な指標では測れません。経済的な数値を追い求めるあまり、地域コミュニティが失われるような「まちづくり」は、板橋区にはなじまない——この問題意識を持ち続け、引き続き粘り強く取り上げていきます。

具体的には、以下のような方向性で施策展開を求めていきます。

  • 東京都官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンドへの積極的な参画・誘致
  • 区独自の住宅取得・家賃補助制度の研究・検討
  • 区職員の区内居住を促進するための具体的支援策(住居手当の見直し等)
  • 地域コミュニティの維持・強化策の充実
  • 地価・家賃の上昇が住民生活に与える影響の実態調査

ジェントリフィケーションは「大河の流れ」のように止めることはできないかもしれません。しかし、その流れに乗るのか、それとも多くの住民が住み続けられる「生活のまち板橋」を守るために多角的な手を打つのか——板橋区の姿勢が問われています。

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