前回、私はこう問いかけて、筆を置きました。
「価値観も、説明する責任も、いまは海の向こうの巨大企業の手のなかにある。
では、日本は——ただそれを受け取るだけの側でいいのか」と。

今回は、その答えを、私なりに出してみます。

囲い込みが進む世界で、日本の役割は決まってくる

これまでの二回で見てきたのは、こういう構図でした。
AIは「資本の重力」に引かれ、巨大企業のものになっていく(第1回)。
そしていまや「国家戦略資源」となり、国家が公開・非公開を握る(第2回)。

強いAIを、強い国と強い企業が囲い込む。
——これが、いま世界で起きていることです。

アメリカが囲い込む。
中国が囲い込む。
その二強の競争を、日本が同じ「物量」で追いかけても、勝ち目はありません。

ならば、日本の役割は、自ずと決まってくるのではないでしょうか。
二強の「囲い込み」に対して、第三の道を示すこと。
すなわち、 「全人類のための、ひらかれた高性能AI」の旗手になること です。

「力技」ではなく「効率」で

いまのAI開発は、GPUという高価な半導体を膨大な量積み上げる「物量勝負」になっています。
電力も、お金も、桁違いに必要です。
この勝負で、日本がアメリカや中国に正面から勝つのは、現実的ではありません。

けれど、AIの世界では、面白いことが起きています。
「物量」ではなく「設計の工夫」で、少ない計算資源でも第一線級に迫るAIが、次々と現れているのです。
必要な部分だけを賢く動かす仕組みや、小さくても高性能な「小型AI」。
——大きな資本を持たない国や、自治体や、中小企業にとって、こうした「軽くて賢いAI」こそ、本当に必要とされるものです。
そこには、世界中からのニーズがあります。

そして、ここに日本の芽があります。
東京発の「Sakana AI」は、「自然は、資源の乏しさからこそ知性を生んだ」という哲学を掲げ、物量に頼らない設計で世界の投資家から高く評価されています。
NTTの「tsuzumi(つづみ)」は、GPUたった一枚でも動く“軽さ”を売りにした国産AIです。
国の計算基盤や、国産AI開発を支援する制度も、すでに動いています。

それでこそ「世界で最もAIを活用しやすい国」になる

日本政府は、「世界で最もAIを開発・活用しやすい国を目指す」と掲げています。
立派なスローガンです。
けれど、それが本当に実現するのは、いつでしょうか。

それは、誰もが——大企業でなくても、行政でも、中小企業でも——安く、安全に、自分の手元でAIを使えるようになったときです。
大資本だけが握る力技のAIではなく、効率で誰の手にも届く、ひらかれたAI。
それを日本が育て、世界に手渡す。

そのときこそ、日本は本当の意味で「AIを活用しやすい国」になり、同時に世界から信頼される「第三極」になれる。
私は、そう考えています。

——とはいえ、現実は甘くない

ここまで威勢のいいことを書きましたが、正直なところ、現実は甘くありません。

日本の国産AIが世界でダウンロードされ、使われている数は、中国の代表的なAIと比べて、桁が二つも三つも違います。
圧倒的に少ない。
国のAIへの投資額も、アメリカのおよそ三十分の一ともいわれます。
「日本のAIは世界トップクラスだ」という宣伝も、その多くはまだ、作った会社自身の評価にとどまり、世界の土俵での独立した検証を経ていません。

日本は「戦略」を議論しているか

こうした「国家戦略」を、日本は今、本気で議論しているでしょうか。

政府の「AI基本計画」(2025年末に決定)は、実はかなり正直です。
「投資規模では出遅れた」と認めたうえで、「『信頼できるAI』でこそ勝ち筋がある」「ひらかれたAIで日本がリーダーシップを」と書いている。
方向は、決して悪くないと思います。

けれど、「ひらかれた高性能AIの旗手になる」という旗を、国家戦略のど真ん中に立てて堂々と語っているかというと——私には、そうは見えません。
国会の議論も、個別の国産AI支援の話に留まりがちで、「日本はAIで世界に何を差し出すのか」という大きな絵が、ほとんど語られていない。

最新のニュースとしては、経済産業省が、ソフトバンクなどが中心となって設立した国産AI基盤開発会社「Noetra」に3873億円を支援するとの報道がありました。(国産AI開発支援、ソフトバンクなど設立の新会社選定 経産相が発表(日本経済新聞))

これは朗報です。
民間資本に税金を投入するべきかどうかは常に議論になりますが、AIを「公共財」とみなす観点から、AIへの税金投入は必要なことだと私は考えます。

ただ、新会社の方向性を見ますと、どうも日本が得意とする製造業の方向、「フィジカルAI」といった方向に注力するようです。(国産AIを44社連合で開発へ、官民でフィジカルAI推進 社名一覧(日本経済新聞))

日本の得意分野を活かすことは大事ですが、それだけでは「AI民主主義」の旗手にはなれません。
米国勢でも中国勢でもない「基幹モデル」を提示することが重要なのです。

こうした、大きな理念に基づく方針こそが「国家戦略」と呼ぶに相応しいものです。

いち板橋区議が言うには、分不相応なテーマかもしれません。
でも、誰も言わないのなら、地方議員からでも言い続けなくてはなりません。
日本は、力技でなく効率で、囲い込みでなく開放で、そして信頼で——AIの「第三極」を目指すべきだ、と。

次回へ

そして、この「ひらかれた・効率的な・信頼できるAI」を最初に使う主体は、実は私たち自治体かもしれません。
国家戦略は、足元から始められる。

次回はいよいよ最終回です。
この大きな話を、私たちの街・板橋区のAIにどう降ろすのか。
具体的に、考えます。

——日本は、AIで世界に何を差し出せるのか。
皆さんのご意見・ご感想を、ぜひお聞かせください。

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