10/26登壇の決算総括質問解説、第3回は、都議会で激論が続いている英語スピーキングテスト「ESAT-J」についてです。
各方面から見直しを求める声が上がる「ESAT-J」
東京都教育委員会は、ベネッセが提供する英語スピーキングテスト「ESAT-J」を今年度の東京都内の公立高校の入試に組み入れる方針で準備を進めていますが、このESAT-Jに不備が多く、公平な入試が実現できるか疑問視されています。
都立高校入試に「中学校英語スピーキングテスト」活用を強行する危うさ(東洋経済オンライン)
ESAT-Jについては多数の問題点が指摘されていますが、大きな問題は3点です。
- 不受験者の扱い
- 事業者選定経緯の不透明さ
- 利益相反
この中でも、「公平な入試」という観点から最も問題視されているのが「不受験者の扱い」です。
11/27のESAT-J実施当日に病気になったり、この日の時点での私立学校・他県の学校の生徒である受験生は、ESAT-Jを受験することができない「不受験者」という扱いになります。
ESAT-Jには最大20点が割り当てられますので、自らの責に依らずに20点を失うのでは公平性に欠けるということで、東京都教育委員会では、不受験者に対する「仮点数」の付与方法を以下のHPで説明しています。
東京都立高等学校入学者選抜における東京都中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)結果の活用について(東京都教育委員会)
この「仮点数」の算出方法に問題があるということで懸念の声が多数寄せられているわけですが、以下、私が総括質問で使ったスライドによって解説します。
筆記試験の結果から、スピーキングテストの点数を類推できるのか?
まず、以下にひとつの仮点数算出例を示します。
まず、ESAT-J不受験者が受験した「英語学力検査」の点数と同じ点数の受験者を10名集めます。
そして、不受験者以外のESAT-Jの結果を合計し、平均点を出すわけです。
上記の例では、不受験者には「16点」が付与されます。
ここでまず問題になるのは、英語学力検査という「筆記試験」から、ESAT-Jという「スピーキングテスト」の点数を類推できるような相関関係の根拠はあるのか、ということです。
極論するなら、「筆記試験でスピーキングの能力が測れるなら、スピーキングテストをやらなくてもいいじゃないか」とも言えてしまいます。
「入試改革を考える会」による都教委への公開質問状における「筆記試験とスピーキングテストの相関関係を示すデータはあるか」という質問に対し、都教委は「そうしたデータはない」と回答しています。
このような算出方法による「仮点数」の妥当性を示す根拠がないことを、都教委が認めています。
順位が「逆転」する可能性も
さらに、英語学力検査の得点が低い不受験者のほうがESAT-Jの仮点数が高くなる「逆転現象」が起こる可能性が指摘されています。
この算出例2を算出例1と比較した場合、不受験者の仮点数は「20点」となり、英語学力検査の点数が75点だった算出例1の不受験者に比べ、4点も点数が高くなります。
受験は、1点を争うものです。
1点違えば合格と不合格が分かれてしまうのに、このような不確かな方法で平均値を求めた結果、4点あるいはそれ以上の変動が起こり得るとするなら、公平な入試とはとても言えなくなります。
「入試改革を考える会」の公開質問状にて「このような逆転現象は起こり得るか」と質問された都教委は、
「起こり得ないと限定するものではないと考えます」
と回答しています。
なんだかグニャグニャした日本語ですが、要は「起こり得る」ということです。
これはもう、公平な入試にはならないと都教委が認めたに等しいですね。
ESAT-Jに酷似した「GTEC」、塾や自治体で導入を要望する声
ESAT-Jと同じくベネッセが提供する英語4技能試験「GTEC」が、ESAT-Jと酷似しているという意見も多く寄せられています。
都立高入試英語スピーキングテスト、民間試験GTECとそっくり 都教委は「似ていても違う」(朝日新聞EduA)
GTECであらかじめ勉強しておけばESAT-Jが有利になることが想定されるため、「ならGTECを導入しよう」という声は当然大きくなります。
GTECを採用している都内自治体は9自治体あるとのことです。
また私は塾の経営をされている方からも意見を聞きましたが、やはり保護者から「GTECを入れてほしい」という声が高まっているそうです。
東京都の入試にESAT-Jが使われることで、同じベネッセが提供するGTECがどんどん採用され、ベネッセに利益が上がっていくことになります。
ひどい利益相反ではありませんか。
板橋区全体ではGTECを採用していませんが、私は令和元年に一般質問で、板橋区立中学校でGTECが随意契約で導入された件について質問しています。
現時点でこの中学校がまだGTECを使用しているのか、今回の総括質問で質問したところ、利用を終了し現在は採用していないとの答弁でした。
板橋区では現在GTECは使われていないということになりますが、生徒や保護者にとってこれがいいことなのかよくないことなのか、という点については、当然意見が分かれるでしょう。
受験を有利にするためGTECを導入すべきだという意見も出るでしょうし、そういうことはすべきではないという意見もあるでしょう。
こういう分断が起こるから、利益相反はよくないのです。
板橋区教委「意見を述べる立場にはないが、質問を継続する」
こうした数々の問題があるESAT-Jについて、板橋区教育委員会は中学生・受験生を守るという立場に立ってほしい。
受験生を送り出す立場として都教委に意見を言っていってほしいと、私は質問しました。
それに対する答弁は、以下のようなものでした。
これまでも議会の中では、幾度となく答弁させていただいております。ご承知のとおり本テストでございますが、東京都の教育委員会の監修の下で行われるというものでございます。板橋区教育委員会が本テストの入試の活用の成否について意見を述べる立場ではないんですけれども、受験生が安心して入試に臨めるように、必要に応じて都への質問を継続しつつ、公正に評価されることを東京都教育委員会に期待しつつ、注視していきたいと思います。
一見ゼロ回答のように見えますが、私はわずかながら誠意を感じました。
意見を述べる立場にはないが「質問は継続する」と言っているのです。
ならば、質問をしましょう!
筆記試験とスピーキングテストの相関関係を示すデータはない。
そして、順位の逆転現象が起こり得る。
いずれも都教委自身が認めている。
ならば、その実施には問題があるのではないか?
という質問を都教委にしてほしい、と質問しましたところ、その答弁は以下のようなものでした。
今後の質問内容も含めて、検討していきたいと思います。
うーん^^;
まあ、あとは板橋区教委の、教育者としての良心に期待しましょう!
英語スピーキングテスト「ESAT-J」について、何かご質問やご意見がありましたら、お気軽にお寄せください!