災害対策集中連載、今回は「感震ブレーカー」についてです。

今日の話は、御船町の報告の続きでもあります。

私が、御船町で電源を一本抜いた理由

御船町の報告に、こう書きました。

午前中に伺ったお宅で、危険なタコ足配線を見つけました。
ご主人に断って、電源を抜かせていただきました。

理由は一つです。
まだ余震が続いており、停電になる可能性がある。
そして停電から復旧したときの火災が怖いからです。

これを「 通電火災 」といいます。

地震で停電した家に、数時間後、あるいは数日後に電気が戻ってくる。
そのとき、倒れた電気ストーブが可燃物に触れていたら。
熱帯魚の水槽用ヒーターが、割れた水槽の外で空焚きになっていたら。
配線が家具の下敷きになって傷ついていたら。

誰もいない家で、火が出ます。
そして地震直後は、消防車が来ません。

阪神・淡路大震災では、原因が特定された建物火災のうち、電気を原因とするものが最も多くを占めたと分析されています。
東日本大震災でも、同様の指摘があります。
「揺れで死ななかった人が、火事で死ぬ」。
これが、地震火災のいちばん怖いところです。

対策は、二つあります。

一つは、 避難するときにブレーカーを落としてから出る こと。
これは今日、お金をかけずにできます。
ただし、家族全員がそれを覚えていて、慌てている最中に実行できるか、という問題が残ります。

もう一つが、揺れを感知して自動的に電気を止める「感震ブレーカー」です。
人が判断しなくても止まる。
これが本命です。

板橋区の目標は「全世帯100%」です

板橋区は、感震ブレーカーについて「 全世帯への100%設置 」を目標に掲げています。
これは区の「いたばし防災+カタログ」の誌面に、はっきり書かれています。

では、現実はどうか。

令和7年度の区民意識意向調査によると、設置率は 10.6% です。
(令和7年4月25日〜5月16日実施、回答1,275人、報告書176ページ)

目標100%に対して、現実10.6%。
その差は、およそ90ポイントです。

ただし、これを「区が何もしていない」と読むのは正確ではありません。
令和5年度の同じ調査では、設置率は3.5%でした。
2年で3倍になっています。

これは「いたばし防災+カタログ」の成果と言えます。

無料で配っても、3分の1は受け取らなかった

いたばし防災+カタログは、区内全341,647世帯を対象に、5,000円相当の防災用品をカタログから選んで受け取れるという事業でした。
補正予算は18億7,924万円。
令和7年8月31日で終了しています。

結果はこうです。

  • 申込:222,429世帯= 65.1%
  • そのうち、感震ブレーカー入りのセットを選んだ世帯:20,233世帯
  • 未申込世帯には、携帯トイレ20回分を区から送付

3世帯に2世帯が申し込んだ。
これは、事業として成功したと言っていい数字だと思います。

しかし、裏返すと、こうなります。

約12万世帯、全体の34.9%は、無料でも申し込みませんでした。

ここが、防災のいちばん難しいところです。
制度を作っても、無料にしても、届かない層がいる。
そして届かない層ほど、災害時に困る可能性が高い。

私は、この12万世帯をどう考えるかが、次の防災施策の中心だと思っています。

「13.46%」と「令和11年度15%」——数字の二重構造

もう一つ、議会資料を読んでいて引っかかったことがあります。

区は災害対策調査特別委員会(令和7年6月18日)の資料で、感震ブレーカーの普及について「13.46%」という数字を示しています。
この13.46%は、意識調査の10.6%とは別の計算です。

既に設置していると回答した割合に、カタログでの新規申込を足して、全対象世帯341,647で割った値 です。
申込世帯を分母にした割合ではありません。

そして、地域防災計画に書かれている減災目標は、こうです。

令和11年度までに15%。

つまり、区の中には二つの数字が並んでいます。
カタログ誌面の「100%設置」と、計画上の「令和11年度15%」です。

これは矛盾というより、「掲げる目標」と「計画に落とした目標」の性格の違いだと理解しています。
それでも、90ポイントの差を埋める道筋が15%止まりであることは、区民から見て分かりにくい。
目標をどう置き直すのかは、正面から議論すべきだと考えています。

我が家では、付きませんでした

ここからは、私自身の話です。

私も、いたばし防災+カタログで感震ブレーカーを申し込みました。
分電盤のマスターのスイッチに引っ掛けてブレーカーを落とす簡易型でした。

そして、我が家では取り付けられませんでした。

分電盤の形状が合わなかったのです。

これは製品が悪いという話ではありません。
簡易型は安価で、多くの家庭で使えます。
しかし「配れば全世帯に付く」というほど、住宅の事情は単純ではない、ということです。

分電盤タイプの感震ブレーカーを電気工事で設置しようとすると、機器と工事で数万円かかります。
「カタログで無料配布」と「数万円の自己負担」のあいだには、大きな段差があります。

目標100%に対して現実10.6%という数字の背景には、この段差があると私は考えています。

23区の格差は、金額で見えます

では、他の区はどうしているのか。

東京都がまとめている区市町村の支援制度一覧(令和8年6月時点)で、板橋区は「あっせん」に分類されています。
購入のあっせんはするが、購入費そのものへの助成はしていない、ということです。

一方で、購入費を助成している区があります。
各区が公表している内容を、そのまま並べます。

  • 品川区:木造住宅の分電盤タイプで、費用の6分の5・上限8万円。高齢者や障害のある方のいる世帯は8分の7・上限10万円。アース付コンセント型は全額・上限3万円。
  • 足立区:木造住宅で、費用の3分の2・上限5万円。特例世帯は全額・上限8万円。令和7年7月から対象が区内全域に広がりました。
  • 新宿区:分電盤タイプで、費用の4分の3・上限6万円。住民税非課税世帯は6分の5・上限7万5千円。
  • 杉並区:自己負担一律2,000円で設置。火災危険度ランク4・5の地域や、障害者手帳をお持ちの方がいる世帯などは、その2,000円も区が負担します。

金額の大小そのものより、注目していただきたいのは設計です。
どの区も、 世帯の状況に応じて自己負担を薄くする仕組み を持っています。
「配って終わり」ではなく、付けられない人をどう減らすかが設計に入っている、ということです。

数万円の段差を公費で埋めている区が、現に23区の中にあります。

私は、板橋区にも感震ブレーカーの購入費助成制度を創設すべきだと考えています。
理由は三つです。

  1. 目標100%と現実10.6%の差を、あっせんだけで埋めるのは、すでに頭打ちが見えていること。
  2. 簡易型が使えない住宅が現実に存在し(我が家がそうです)、そこから先は自己負担になっていること。
  3. 通電火災は、同時多発火災として消防力を超える形で起きる。個々の家庭の対策が、そのまま地域全体の被害を左右すること。

金額や時期を約束できる立場ではありませんので、「助成を実現します」とはちょっと言えません。
ただ、機会があるごとに求めてまいります。

今日、お金をかけずにできること

感震ブレーカーの話をすると、「うちは付けられない」で終わってしまうことがあります。
そうならないように、今日できることを三つ書いておきます。

1. 避難するときは、ブレーカーを落とす。

分電盤の位置を、今日、家族全員で確認してください。
暗闇で探せますか。
懐中電灯は、その近くにありますか。

2. 家具を固定する。

地震によるケガの3割から5割は、家具類の転倒・落下によるものです(東京消防庁)。
板橋区の区民意識意向調査では、家具固定の実施率は31.0%にとどまっています。
板橋区は、高齢者・障がい者のみの世帯を対象に、取付費の助成(上限22,000円)を行っています。

3. タコ足配線を見直す。

私が御船町でやったのは、結局これでした。
平時に見直しておけば、災害時にやらなくて済みます。

まとめ

  • 通電火災は、停電から復電したときに、誰もいない家で起きる。地震直後は消防車が来ない。
  • 板橋区の感震ブレーカー目標は「全世帯100%」、現実の設置率は10.6%(令和7年度区民意識意向調査)。ただし令和5年度の3.5%から2年で3倍にはなっている。
  • いたばし防災+カタログは65.1%が申し込む成功事業だったが、約12万世帯(34.9%)は無料でも申し込まなかった。
  • 区の中には「100%設置」と「令和11年度15%」という二つの目標が並んでいる。
  • 簡易型は全ての住宅に付くわけではない(我が家では付かなかった)。その先の数万円の段差を、足立・品川・新宿・杉並などは購入費助成で埋めている。板橋区は「あっせん」にとどまる。
  • 今日できるのは、ブレーカーの位置確認・家具固定・タコ足配線の見直し。

次回は、避難所の話です。
建物で守られて生き延びた後、避難所で人が亡くなる——災害関連死とTKB48について書きます。


出典・参考資料

関連記事

  • 最新記事
TOP
目次