今日、ある町会の役員の方から聞かれました。

「板橋区の防災備蓄は、どうなっているのか」

即答できませんでした。
区は毎年きちんと公表しています。
ただ、公表されているのは8,940行のExcelです。
自分の避難所の分を探すだけでも、ひと苦労です。

これでは「調べれば分かる」とは言えません。
その場でClaude Codeを使い、地図から引けるものを作りました。

▶ 板橋区 避難所別 備蓄物資マップ
https://nakatsuma.jp/app/bichiku/


使い方

開くと、板橋区の地図に75個のマーカーが出ます。
これが、区が備蓄物資一覧を公表している避難所です。

自分の家の近くのマーカーを押してください。
下から一覧がせり上がって、その避難所に何がどれだけ置いてあるかが、分類ごとに出ます。

  • 水・給水
  • 食料
  • 防寒
  • トイレ
  • 衛生・生活
  • 医療
  • 避難所運営
  • 炊き出し
  • 救助資機材
  • 感染症対策

学校名で探したい方は、右上の「リスト」に切り替えると検索できます。

数字は区が公表しているものをそのまま使っています(令和8年4月1日現在)。
備蓄数は年1回更新されていますので、それに合わせて今後更新する予定です。


「段ボールベッドの備蓄はない」

その役員の方は、こうもおっしゃいました。

「区の職員に『段ボールベッドの備蓄はないのか』と聞いたら、『ない』と言われた」

私は、あったような気がしていました。
記憶違いか、それとも何かの行き違いか。
この機会に調べました。

結論から言うと、区の職員の回答は正確でした。
区が倉庫に置いている物資——「現物備蓄」——のなかに、段ボールベッドはありません。
公表されている一覧を全部当たりましたが、寝るためのものとしてあるのは毛布とマットレス、そしてテントとパーティションです。

ただし、話はここで終わりません。

板橋区は令和4年8月、区内の段ボール企業である株式会社志村製函所と、災害時の物資供給協定を結んでいます。
その協定書の第4条には、供給する品目がはっきり書かれています。

段ボール製品/ 段ボール製簡易ベッド /段ボール間仕切り/その他区が指定し乙が供給可能なもの

段ボールベッドは、区が現物では持たず、協定で確保する設計になっていた のです。

「ない」も正しい。
「ある」も、あながち間違いではない。
どちらの答えも、聞き方によっては成り立ってしまう。

ここに、この問題の本質があると思いました。


災害時に物資が届くルートは、3つある

調べていくうちに分かったのは、区民の手元に物資が届く経路が3本あるということです。
そして 公表義務があるのは、そのうち1本だけ です。

ルート 中身 数量の公表
① 現物備蓄 区が買って倉庫に置いてある物資 あり (災害対策基本法49条2項)
② 協定物資 企業・団体との協定で供給を受ける物資 なし
③ 公的支援物資 東京都・国・ほかの自治体から届く物資 区の計画には記載なし

「協定物資」「公的支援物資」という言葉は、私が作りました。
区の計画の中に、ちゃんと定義された言葉がないからです。
物資の位置付けによって、見通しや取り扱いがまったく異なります。
この点はきちんと定義するよう、今後求めていきたいと思います。

区の備蓄の考え方は、平成24年度に作られた「物資備蓄体制最適化計画」に基づいています。
発災後3日分を現物で持ち、4日目以降は調達と支援でしのぐ。
これが基本設計です。

つまり①は3日分しかない。
それは足りないという話ではなく、 はじめからそういう設計 だということです。
残りは②と③が担う前提になっています。

だからこそ、②と③がどうなっているかが重要になります。


協定物資の課題

板橋区は令和7年4月1日現在で 294件 の災害時協定を結んでいます。
このうち物資そのものの供給に直結するのは、おおむね46件です。

数だけ見れば、厚みがあるように見えます。
しかし中身を読むと、いくつも引っかかるところがありました。

1. 数量の約束がない

協定書の多くは「乙が供給可能な数量」「可能な限り協力する」という書き方です。
何をどれだけ届けてもらえるかは、発災してみないと分かりません。

例外は米と粉ミルクだけです。
これは数量を決めて在庫を回す「ランニングストック方式」で、区は議会で米38,400kg(約25万食)、粉ミルク270缶と答弁しています。
ただし、それは平成21年の答弁です。
その後17年間、数量が更新公表された形跡がありません。

2. 区自身が「実効性は課題」と認めている

令和6年2月22日の災害対策調査特別委員会で、防災危機管理課長はこう述べています。

ここの実効性の部分は、実は私どもも課題と捉えて認識しております

さらに、実効性のない協定が見つかった場合の対応を問われて、こうも答えています。

区のほうで実効性がないという判断というのは、なかなか難しい

3. 事業者の事業継続計画(BCP)を確認していない

協定を結んだ企業も、同じ災害で被災します。
その企業が事業を続けられる備えをしているか、区は確認していません。
令和8年2月24日の答弁は「一定できてるのではないかと想定」でした。

4. 中核の協定が約50年前のもの

食料・日用品の供給協定のうち中核となる5件は、昭和50年から54年にかけて結ばれたものです。
そのうち2店舗はすでに閉店しています(ダイエー西台店、イトーヨーカドー上板橋店)。
区は「本社を介して要請できる」として協定を解除しない方針です。

5. そして、段ボールベッド

冒頭の話に戻ります。
議会で段ボールベッドについて問われたとき、課長はこう答えました。

4日目以降は、ご案内の段ボールベッドなども受援として届く形で

区内の志村製函所との協定には、触れていません。
区内の企業から調達するのか、外から届くのを待つのか。
どちらを主に見ているのかが、答弁からは読み取れません。

町会の役員の方が「ない」と言われたのは、おそらくこの見通しの曖昧さと地続きです。


公的支援物資の課題

3本目の「東京都・国・ほかの自治体から届く物資」も調べました。

区の地域防災計画には、時間軸の分担が書かれています。
2日目以降は東京都から、4日目以降は国から。
このほか、板橋区は8県13の自治体などと災害時相互援助協定を結んでいます。

しかし、 区の計画文書を全文検索しても、公的支援物資の数量はどこにも書かれていません。
「いつ来るか」は書いてあって、「何がどれだけ来るか」は書いていない。

もうひとつ、調べていて驚いたことがあります。
区の備蓄倉庫の中には、 区のものではなく東京都のものが混ざっています。
「都からの事前寄託分」と呼ばれるもので、これを出すには原則として東京都福祉局長の承認が要ります。

そして、公表されている避難所別の一覧を見ても、 どの行が都の寄託分なのかは判別できません。
所有者や出庫手続きの違いが、公表データに反映されていないのです。


私が地図を作った理由

備蓄が足りているか足りていないかを、この記事では書きません。
分母を示せないからです。

避難所ごとに想定される避難者数は違います。
それを示さずに「◯◯食しかない」と書けば、不安を煽るだけになります。
今回作った地図でも、マーカーの色分けはしていません。
量の多寡で色を塗れば、数字を書かずに評価を語ることになるからです。

私がやりたかったのは、そこではありません。

「調べれば分かる」を、本当に調べられる状態にすることです。

区はきちんと公表しています。
公表しているのに、8,940行のExcelでは実質的に届いていない。
これは区の怠慢というより、 公表の形式と、住民が知りたい形とのあいだに隙間がある ということだと思います。

その隙間は、技術で埋められます。
今回は半日でできました。


議会で聞くこと

調べた結果、いくつも聞くべきことが出てきました。

  1. 協定第8条・第9条の年次報告 — イオン、ビバホーム、イワツキとの協定には「毎年4月に供給可能な物資を区に報告する」条項があります。区は毎年データを受け取っているはずです。その内容は
  2. ランニングストックの現在値 — 米と粉ミルクの数量は、平成21年の答弁から更新されていません。いまいくつか
  3. 段ボールベッド — 区内の志村製函所からの調達と、外部からの受援と、どちらを主に見ているのか。供給可能数の見込みはあるか
  4. 都の事前寄託分 — 公表されている避難所別一覧に、都の寄託分は含まれているのか。含まれているなら、どれか
  5. 平成24年の宿題 — 実効性の課題は、14年前の区自身の点検ですでに洗い出されていました。その後どうなったのか

最後に

町会の役員の方の一言がなければ、私はこれを調べていませんでした。

「段ボールベッドはないと言われた」

その一言から、区の備蓄が3つのルートに分かれていること、公表義務があるのは1つだけであること、そして2つ目と3つ目には数量の裏づけが乏しいことが見えてきました。

地図は誰でも見られます。
ご自身の避難所を、一度ご覧になってみてください。

▶ 板橋区 避難所別 備蓄物資マップ
https://nakatsuma.jp/app/bichiku/

そして、気づいたことがあれば教えてください。
現場の一言が、いちばん強い調査の入り口です。


出典

  • 板橋区「避難所備蓄物資一覧(令和8年4月1日現在)」|https://www.city.itabashi.tokyo.jp/bousai/bousai/1005690.html
  • 板橋区「災害対策基本法に基づく物資の備蓄状況の公表(令和8年4月1日現在)」|同上
  • 志村製函所との協定(令和4年8月30日)第4条|地域防災計画資料編 資料3.6.40
  • 防災危機管理課長答弁|令和6年2月22日・令和6年12月10日・令和8年2月24日 災害対策調査特別委員会
  • 米・粉ミルクのランニングストック|平成21年 議会答弁
  • 協定件数294件|令和7年4月1日現在

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