災害対策集中連載、最終回です。
今回は「崖」の話をして、それから連載全体をまとめます。
板橋区の災害リスクといえば、まず荒川に伴う水害です。
しかし板橋区には、もう一つの顔があります。
土砂災害警戒区域152箇所——港区に次ぐ23区第2位
板橋区の土砂災害警戒区域は152箇所、そのうち特別警戒区域は118箇所です(令和8年3月25日の見直し後)。
これは、 23区の中で港区(208箇所)に次ぐ第2位 です。
理由は、区の中央を東西に貫く「崖線」です。
小豆沢から、志村・中台・西台を通って、赤塚へ。
武蔵野台地と荒川低地の境界にあたるこの線が、高低差最大およそ33メートルの崖として、区内を横断しています。
崖の正体は、流れる幾多の川、そして「海」が台地を削った跡です。
上から武蔵野礫層・関東ローム層、その下に約15万年前の海の地層である東京層が重なっています。
貝の化石が出る地層です。
そして——赤塚不動の滝や薬師の泉といった、板橋区が誇る名湧水の崖と、土砂災害警戒区域の崖は、同じものです。
きれいな湧水が出るのは、水を通す層と通さない層の境目が露出しているからで、それはそのまま崩れやすさでもあります。
板橋区の土砂災害ハザードマップは、7つの地域に分かれています。
- 成増
- 大門・赤塚・三園
- 徳丸
- 西台・若木・中台・前野町
- 志村・大原町・泉町
- 小豆沢
- 小茂根・向原・大谷口
ご自宅や職場がこの地域にある方は、一度ご確認ください。
「崖の上」も、警戒区域です
土砂災害警戒区域の範囲は、傾斜30度以上の崖について、次のように決まっています。
- 崖の上端から10メートル
- 崖の下端から、崖の高さの2倍(最大50メートル)
つまり、崖の下だけでなく、 崖の上に建っている家も警戒区域に入ります。
崖が崩れれば、上に建っている家は足元を失います。
崖は、地震でも崩れます
もう一つ、制度の隙間の話をします。
土砂災害警戒区域の制度は、基本的に大雨を前提にしています。
しかし現実には、崖は地震でも崩れます。
- 2016年の熊本地震では、九州で190件の土砂災害が発生しました。
- 2024年の能登半島地震では、400件以上です。
- 今回の令和8年熊本地震でも、揺れで緩んだ地盤が雨で崩れることを警戒して、気象庁が土砂災害の警報基準を引き下げて運用しています。
揺れで緩み、後から雨で崩れる。
地震と大雨は、別々の災害ではありません。
さらに、雨も地震もない日に崩れることもあります。
2025年9月30日、杉並区堀ノ内一丁目で高さ4〜5メートルの擁壁が崩れ、隣接する住宅が全壊しました。
老朽化した擁壁は、全国に100万カ所を超えるとも報じられています。
板橋区の崖線には、古い擁壁が数多くあります。
区の対策は、まさに今年から本番です
板橋区には、がけ・擁壁の安全対策工事への助成があります(高さ2メートル超が対象)。
- 擁壁の新築・築造替え:費用の5割以内、上限700万円
- 擁壁の補強:上限100万円
そして令和8年度、区は新規事業としてがけ・擁壁およそ900か所の実態調査に着手し、あわせて「板橋区がけ・擁壁防災対策方針」を策定します。
予算は3,805万円です。
これは、まさに今動いている施策です。
同時に、率直に申し上げれば、 23区で2番目に警戒区域の多い区が、実態調査をようやく令和8年度に始める ということでもあります。
私としても、この調査の進捗を見ていきたいと思います。
「レベル4土砂災害危険警報」に名前が変わりました
最後に、実用的な話を。
2026年5月29日から、気象情報の名称が変わりました。
これまでの「土砂災害警戒情報」は、 「レベル4土砂災害危険警報」 という名称になっています。
警戒レベルが名前に入ったので、分かりやすくなりました。
レベル4は、全員避難です。
そして今年7月24日の夕方、板橋区にレベル4大雨危険警報が実際に発表されました。
都心では17時までの1時間に51.5ミリを観測しています。
1時間50ミリを超えたのは、12年ぶりのことでした。
もう、他人事ではありません。
集中連載のまとめ——6本で分かったこと
ここからは、今回の集中連載の総まとめです。
7月28日の令和8年熊本地震を受けて始めたこの連載は、途中、私自身が現地に入ったことで予定を変え、今回を含めて7本になりました。
今回以外の6本を順に振り返ります。
①板橋区の「最悪シナリオ」は意外な地震だった
https://nakatsuma.jp/2026/08/03/itabashi-jishin-saiaku-scenario/
「板橋区は地震に強い」は、都心南部直下地震のシナリオでは本当です。
しかし板橋区にとっての最悪は、あまり報道されない多摩東部直下地震でした(死者109人・区内唯一の震度7想定)。
そして東京都の被害想定には「板橋区への応援は遅れる、または限定されるおそれがある」と明記されています。
②【緊急報告】熊本県御船町に災害ボランティアに行ってきました
https://nakatsuma.jp/2026/08/05/mifune-saigai-volunteer/
8月4日、御船町で災害ボランティアとして活動しました。
現地の第一印象は「被害が見えない」。
耐震化が効いている一方で、「見えない被害」が残っていました。
持ち帰ったのは、①バッテリーは生命線②ボランティアは居住地でなく定員で仕切るべき③受援計画を実効性のあるものに、の3つです。
③【備蓄物資マップ公開】「段ボールベッドはない」と言われた
https://nakatsuma.jp/2026/08/06/bichiku-map-3routes/
町会役員の方の一言から調べたところ、区民に物資が届くルートは3本(現物備蓄・協定物資・公的支援物資)あり、 数量の公表義務があるのは1本だけ でした。
避難所ごとの備蓄を地図から引けるようにしました。
④感震ブレーカー「目標100%・現実10.6%」
https://nakatsuma.jp/2026/08/10/itabashi-kanshin-breaker/
区の目標は全世帯100%設置、現実は10.6%。
簡易型は我が家では取り付けられませんでした。
数万円の段差を、足立・品川・新宿・杉並は購入費助成で埋めています。
⑤生き延びた後、避難所で人が死ぬ
https://nakatsuma.jp/2026/08/12/itabashi-hinanjo-kanrenshi-tkb48/
日本は建物で人を守るのは世界一。
しかし能登では災害関連死が直接死の2倍を超えました。
板橋区は体育館空調全校整備・携帯トイレ約4倍増と到達点が多い一方、段ボールベッドが現物備蓄になく、1人あたり1.75㎡は都の新指針(3.5㎡)と開きがあります。
⑥あの夜、荒川は「あと53cm」だった
https://nakatsuma.jp/2026/08/13/arakawa-ato-53cm-taifu19/
2019年の台風19号で、荒川は氾濫危険水位まであと53センチでした。
床上浸水6棟という数字は、区の想定する本番の約2%にすぎません。
「ちょっと微妙な部分がございます」という率直な答弁から、荒川シフトが生まれました。
そして、動画版でも全体をお話ししています。
▶板橋区の災害対策総まくり(YouTube)
https://youtu.be/UjaYsXk2RLM
連載を通して見えた、板橋区の姿
7本を書き終えて、率直に申し上げます。
板橋区の災害対策は、水準が高いです。
体育館の空調は全校整備済み。
携帯トイレは1年で約4倍。
粉ミルクは液体ミルクに全面切替。
荒川下流タイムラインは全国初のモデル区。
舟渡・新河岸では、バス3社との覚書で要配慮者を高台へ運ぶ仕組みまで作られています。
その上で、次の一手として私が重要だと考えているのは、次の5つです。
- 感震ブレーカーの購入費助成の創設 — 目標100%と現実10.6%の差を、あっせんだけで埋めるのは限界に来ています。
- 避難所の質の目標を、数値で明文化すること — TKB48の考え方と、スフィア基準の1人3.5㎡を、区の運営マニュアルに書き込む。
- 受援計画の実効化 — 備蓄は3日分、避難者ピークは4日後から。都の想定は「板橋区への応援は遅れる」と書いています。御船町からの帰り道、いちばん考えたのがこれでした。
- 個別避難計画を、地震にも広げること — 現在の策定率は2.36%、しかも水害特化で地震は対象外です。
- がけ・擁壁の実態調査を、調査で終わらせないこと — 令和8年度に始まる900か所の調査から、実際の対策までをつなぐ。
議会で質問できる機会は、一人会派の私には多くありません。
それでも、機会があるごとに求めてまいります。
最後に——ご家庭で、今日からできる5つのこと
制度の話をどれだけしても、最後に命を守るのはご自身の備えです。
連載の締めくくりとして、5つに絞ってお伝えします。
1. 水と食料を、1週間分。
1人1日3リットル、最低3日・推奨1週間。
4人家族なら84リットルです。
カセットボンベは1人あたり週6本が目安。
買い足しながら使う「ローリングストック」で構いません。
必要量は「東京備蓄ナビ」で自動計算できます。
2. 携帯トイレを、4人家族で最低60個。
能登の最大の教訓です。
1人1日5回×最低3日分。
推奨は1週間分ですから、本当は140個です。
トイレを我慢して水分を控えると、エコノミークラス症候群になります。
それが災害関連死につながります。
トイレは、命に直結します。
なお、排水管が損傷しているときに水を流すと、下の階に汚水が出ます。
マンションにお住まいの方は、特にご注意ください。
3. 家具を固定する。
地震によるケガの3割から5割は、家具の転倒・落下です。
耐震改修より先に、今日できます。
板橋区には高齢者・障がい者のみ世帯への取付助成(上限22,000円)があります。
4. 感震ブレーカーと、「ブレーカーを落として逃げる」。
付けられるなら付ける。
付けられなくても、分電盤の位置を家族全員で確認しておく。
これだけで、通電火災のリスクは下がります。
5. 安否確認の練習を、家族で一度。
災害用伝言ダイヤル 171 は、 毎月1日と15日に練習できます。
今日帰ったら、ご家族で一度やってみてください。
あわせて、次の3つもご確認ください。
- ご自宅の ハザードマップ (荒川氾濫版・集中豪雨版・土砂災害版の3種類があります)
- 地震のときの避難先と、水害のときの避難先(同じとは限りません)
- 罹災証明のために、被害を受けたら 片付ける前にスマートフォンで写真 を撮ること
まとめ
- 板橋区の土砂災害警戒区域は152箇所・特別警戒区域118箇所で、港区に次ぐ23区第2位。区の中央を東西に貫く崖線が理由。
- 警戒区域は崖の上端から10メートル、下端から高さの2倍。崖の上も対象。
- 崖は大雨だけでなく地震でも崩れる。制度は大雨前提であり、地震時の崖リスクは制度の隙間にある。
- 区は令和8年度に約900か所の実態調査と対策方針の策定に着手する。まさに今からが本番。
- 「土砂災害警戒情報」は2026年5月29日から「レベル4土砂災害危険警報」に名称変更。 レベル4は全員避難 。
- 連載6本を通して見えたのは、板橋区の災害対策は水準が高いということ。その上で次の一手は、感震ブレーカー助成・避難所の質の数値目標・受援計画の実効化・個別避難計画の地震拡大・がけ調査の実行の5つ。
連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。
災害は、来ないかもしれません。
しかし来たときには、備えていたかどうかだけが結果を分けます。
今日、水を1本多く買う。
携帯トイレを1袋足す。
家族で分電盤の場所を確認する。
それで十分です。
一つでも、今日やってみてください。
出典・参考資料
- 板橋区「土砂災害ハザードマップ」
https://www.city.itabashi.tokyo.jp/bousai/bousai/map/1005634.html - 東京都建設局「土砂災害警戒区域等の指定状況」
https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/river/dosha_saigai/kasenbu0105/kasenbu0102 - 板橋区「がけ・擁壁の安全対策工事助成」
https://www.city.itabashi.tokyo.jp/tetsuduki/sumai/kenchiku/1001970.html - 板橋区地域防災計画(令和5年度改定+追補版)
https://www.city.itabashi.tokyo.jp/bousai/bousai/chiikibousai/1052402.html - 気象庁「新たな防災気象情報について(令和8年〜)」(2026年5月29日運用開始・「レベル4土砂災害危険警報」への名称変更)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/keiho-update2026/index.html - NHK「東京 板橋区にレベル4大雨危険警報発表 厳重な警戒を」(2026年7月24日)
https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015185401000 - 杉並区「【第1報】堀ノ内一丁目の家屋倒壊について」(2025年10月1日)
https://www.city.suginami.tokyo.jp/news/23240.html - 東京都「東京備蓄ナビ」
https://www.bichiku.metro.tokyo.lg.jp/ - NTT東日本「災害用伝言ダイヤル(171)」
https://www.ntt-east.co.jp/saigai/voice171/