3/17に行いました予算総括質問解説記事、第4回です。
今回の予算案で初めて打ち出された「ユネスコ創造都市ネットワーク加盟」という新たな目標。
趣旨は賛同しますが、区民が「自分ごと」として捉えられるかどうかが重要です。
「みんなにかけ橋 いたばし創造都市宣言」とは何か
今年度(令和8年度)の予算案には、「ユネスコ創造都市ネットワーク(デザイン部門)への加入を目指す」という新たな方針が盛り込まれました。あわせて「みんなにかけ橋 いたばし創造都市宣言」が打ち出され、「絵本のまち板橋」から一歩踏み込んだ文化政策の展開が始まろうとしています。
私はこの方向性に強く共感しています。現在、国際情勢が緊張を増すなかで、文化の力はかつてなく重要です。自分たちの文化を深く理解してこそ、他の文化を正しく理解することができる——「自分が見えることによって初めて相手が見える」という持論を私は大切にしています。
だからこそ、この取り組みが本当に実りあるものになるかどうかを、しっかりと問いただす必要があります。
ユネスコ創造都市ネットワークとは
ユネスコ創造都市ネットワーク(UNESCO Creative Cities Network, UCCN)は、2004年に発足した国際的なネットワークで、創造性を持続可能な開発の戦略的要素として認識する都市間の協力を強化することを目的としています。
対象分野は現在8つで、クラフト&フォークアート(工芸・民芸)、デザイン、映画、食文化、文学、メディアアーツ、音楽、建築です(2025年の新規申請から「建築」が追加)。
日本の加盟都市(全12都市)は以下のとおりです:
– メディアアーツ:札幌市
– 映画:山形市
– 音楽:浜松市
– クラフト&フォークアート(工芸・民芸):金沢市、丹波篠山市、越前市
– デザイン:名古屋市、神戸市、旭川市
– 食文化:鶴岡市、臼杵市
– 文学:岡山市
デザイン分野の日本の加盟都市は現在、名古屋・神戸・旭川の3都市です(参考:浜松市UCCN紹介ページ、名古屋市ページ)。板橋区が加盟を実現すれば、デザイン分野の日本で4番目の加盟都市となります。
質問①:経緯・区民メリット・加盟条件
初めてこの方針が予算案に登場したこともあり、3つの観点から説明を求めました。
政策経営部長の答弁(経緯):
これまでも「絵本のまち板橋」をはじめ文化資源や創造的な取組をまちづくりに活かす施策を展開し、区民・各種団体・企業が共感・参画する機運づくりを進めてきた。有識者懇談会からの提言もあり、ユネスコ創造都市ネットワーク加盟が視野に入ってきた。文化資源・地域産業・公共空間・情報発信など多様な分野を横断し、区の強みを都市の価値として結びつけていく上で、デザイン分野が本区の資源・政策の方向性と最も親和性が高いと判断した。
政策経営部長の答弁(区民メリット):
加盟によって板橋の魅力や取組の発信力が高まり、区民が地域の価値に目を向け実感し、地域活動や創造的な取組に関わる契機が広がる。国際的な交流・他都市との連携は、学び・創作・仕事の面で関係性を生む機会を広げ、区民や地域の担い手が新たな活動に関われる可能性を高める。文化・産業・教育・まちづくりを横断した取組が展開し、地域の活力が高まって生活の質が向上する。
政策経営部長の答弁(加盟条件):
①対象分野における実績や特色を示すこと、②加盟後4年間の行動計画を示すこと、③多様な主体が申請準備に関わること、④ユネスコ国内委員会の承認を得ること——が求められる。「絵本のまち」の取組、都市再生や公共空間活用と連動する拠点づくり、関係主体との連携体制の構築が加盟条件を満たすものとなる。
質問②・③:地元人材の活用を最初から——やまなみ工房の示す可能性
今回の創造都市宣言にあたって、共創クリエーターとして柿木原政広さん(新オフィシャルロゴ・ブランドスローガン制作)とオオノ・マユミさん(基本計画2035のイラストレーション)が参画されました。お二人の実力に異論はありません。
しかし私には、大きな疑問があります。板橋区にはアーティストバンクいたばしがあります。 板橋区ゆかりのアーティストが多数登録されているこの仕組みが、なぜ活用されなかったのか。新たなデザイン・コンセプトを打ち出すなら、まず区民に呼びかけ、アーティストバンクや地元オーディションを通じた地元人材の活用を最初に検討すべきだったのではないか——と指摘しました。
最初の呼びかけを「我こそは」と思う区民に向けて行うことが、「自分ごとにする」ための最も大切な入り口だったはずです。
政策経営部長の答弁:
アーティストバンクいたばしは地元人材を生かす重要な仕組みだと認識している。今回のロゴ等の制作には、板橋の取組に深く関わり趣旨を十分理解している方に共創クリエーターとして参画いただいた経緯がある。創造都市の今後の展開の中で地元人材の活用を図り、共創の考え方を実践していく。
やまなみ工房の事例——地元の「底力」を引き出すプロデュース力
ここで、1月15日に民主クラブで視察した滋賀県甲賀市の「やまなみ工房」の事例を紹介しました。
やまなみ工房は就労継続支援B型作業所ですが、利用者の障がい者の方々が次々と豊かな作品を生み出し、国内外から注目を集めるアートの発信地となっています(参考:しがトコ、DIVERSITY IN THE ARTS)。作品の一つが700万円で取引されたこともあり、パリの有名なコンクールで入賞して利用者の方がパリに招待された例もあります。さらにJALのアメニティ(紙コップ)に採用され、JALの機内でその作品が使われるまでになっています。
施設長の山下完和氏は「最初は普通のB型作業所の施設長で、アートのことはまったくわからなかった」と言います。ある日、封入作業中の利用者が無心に「落書き」をしているのを見て、ふだんとは全く違う表情をしていることに気づいた——そこから始まったのがやまなみ工房のアートの歩みです。画材を用意し、好きなようにやらせてみたら、次々と豊かな表現が生まれてきた。
この話のすごさは、力のある人を外から呼んできたわけではないということです。地元にいる人たちが、可能性を引き出されることで、これだけの成果を生み出せるようになった。それは、プロデュース力の問題だったということです。
私は問いたいのです。板橋区民の実力を、私たちは本当にわかっているのか。ひょっとしたら、それはプロデュース力の問題なのではないか。
私の質問(再掲): 今後ユネスコ創造都市ネットワーク加入を目指すなら、アーティストバンクいたばしや地元オーディションを通じた地元人材の活用を徹底的に行ってほしい。
政策経営部長の答弁:
今後の展開にあたっては、ワークショップや展示、地域に根差した企画など多くの区民が実際に触れ、関われる場面において、地元人材の参画は不可欠だろうと考えている。区ゆかりのアーティストや地域で活動する人材の力を積極的にお借りできるよう、各種取組との接点や参画の在り方を工夫して事業展開していく。
「不可欠」という言葉を答弁として引き出せました。今後、この方針が本当に実践されるかを注視し、必要であれば追いかけていきます。
ミュージアムショップの設置を!——板橋区立美術館と史跡公園
問題意識——なぜミュージアムショップが必要か
私が美術館巡りを趣味とする長男とともに都内の多くの美術館を訪れる中で、あることに気がつきました。板橋区立美術館には、常設のミュージアムショップもオンラインショップもない。
板橋区立美術館(赤塚五丁目)は、1979年5月に東京23区初の区立美術館として開館した歴史ある施設です。しかし、他の多くの美術館では展示室の出口にミュージアムショップがあり、図録やオリジナルグッズを購入できます。
なぜミュージアムショップが重要か。展覧会を見た後に「図録を買って帰る」「関連グッズを手にする」ことで、展示の感動が物として残り、記憶が定着します。「次また来よう」という動機にもなりますし、「アートのまち板橋」という印象の強化にもつながります。
現在、板橋区立美術館のホームページには「図録のご購入を希望の方は現金書留でお送りください」という案内があります。現金書留——今の時代、現金書留の封筒をどこで手に入れるかわからない人も増えています。
質問①:現在の売上・ミュージアムショップ・オンラインショップ設置
私の質問: 現在のホームページを通じた図録等の売上はいくらか。ミュージアムショップとオンラインショップの設置を求める。
区民文化部長の答弁:
令和7年度(2月末現在)のホームページを通じた図録等の売上は6万1,950円。開催期間中には図録・グッズの販売を行っているが、常設のミュージアムショップを設置する考えはない。オンラインショップは「展覧会を鑑賞した際の感動を思い出として購入してほしい」という方針から開設していないが、遠方からの購入希望には現金書留で対応している。
年間の売上が6万円——これは数字の問題ではなく、機会損失の大きさを示しています。オンラインショップは展示を見た後の感動を損なうどころか、より多くの人に作品との出会いを広げる手段です。美術館のコンセプトとオンラインショップの共存は、多くの美術館で既に実現していることです。
この点は引き続き改善を強く求めます。
質問②:整備検討中の史跡公園(仮称)のミュージアムショップ
板橋区では現在、加賀の「史跡陸軍板橋火薬製造所跡」を活かした史跡公園の整備が検討されています(参考:板橋区史跡公園(仮称))。この施設にも同様の問いを投げました。
私の質問: 史跡公園にもミュージアムショップ・オンラインショップの設置を求める。
地域教育力担当部長の答弁:
ミュージアムショップやオンラインショップは、展示物への関心を高め、施設への愛着を醸成するとともに深い学びにつながるなど、多面的な役割を持つと認識している。国内の歴史的建造物内にミュージアムショップを設置する例は数多くあることから、現在、整備手法や運営方法などに関する情報を収集・整理している。板橋区が目指す創造都市の考え方からも地域資源を活かした発信は重要であり、史跡の保存との調和を図りながらミュージアムショップ等の展開を検討する。
史跡公園では前向きな答弁が得られました。しかし、「なぜ美術館では検討しないのか」という矛盾は残ったままです。
創造都市・デザイン部門加入を目指すなら、区立美術館のオンラインショップは最低限の「見せ方」の問題でもあります。ミュージアムショップ設置についても、美術館の外(赤塚溜池公園のスペースを活用するなど)であれば展示の入替期間中でも開けられる方法が考えられます。工夫をこらした整備を、引き続き強く求めます。
まとめ——板橋区の文化政策に期待すること
ユネスコ創造都市ネットワーク加入という目標は、実現すれば板橋区の国際的なプレゼンスを大きく高めるものです。しかし最も重要なのは、この取り組みを通じて板橋区民自身が「自分たちのまちの文化的価値」を再発見し、誇りを持てるようになることです。
やまなみ工房の事例が教えるように、地域の人々の底力を引き出すプロデュース力——それこそが行政に求められる役割です。アーティストバンクいたばしを通じた地元人材の活用、区民参加型のアートイベント、ミュージアムショップを通じた文化の可視化——こうした積み重ねが、板橋区を本当の「創造都市」に育てていくことになると、私は考えています。