連載「障がいと共に生きる板橋へ——中妻じょうたの障がい者政策ノート」第4回です。
今回は「働く・稼ぐ」という切り口で、障がい者雇用の現実と板橋区の取り組みを考えます。


数字は「過去最高」、でも半分以上の企業は未達成

2024年、民間企業で働く障がい者の数は67万7,461.5人となり、21年連続で過去最高を更新しました。

(出典:厚生労働省「令和6年 障害者雇用状況の集計結果」

この数字だけ見れば、着実に進んでいるように見えます。
しかし同じ調査には、もう一つの数字があります。

法定雇用率を達成している企業の割合は、46.0%。

過半数の企業が、まだ義務を果たせていないのです。

2024年4月に法定雇用率が2.3%から2.5%へ引き上げられたことも影響し、前年の50.1%から4.1ポイント低下しました。
2026年7月にはさらに2.7%へと引き上げられる予定で、中小企業を中心に課題はより深刻になります。

障がいの種別で見ると、精神障がい者の雇用増が際立っています。
2024年の精神障がい者雇用者数は15万717人で、前年比15.7%増。
知的障がい者の伸び率(4.0%増)、身体障がい者(2.4%増)と比べても突出しています。

働く場が広がっていること自体は喜ばしいことです。
一方で、「数を増やすこと」と「質のある就労を保障すること」は、別の問題です。


月2万3千円——就労継続支援B型の工賃の現実

「一般企業での就労が困難な方」に対して提供される就労継続支援B型事業所。
そこで働く方々の全国平均工賃は、令和5年度で月額2万2,649円(厚生労働省修正後)です。

(出典:厚生労働省「令和6年度工賃(賃金)の実績について」

2万2,649円。
最低賃金法の適用外であり、これは「給与」ではなく「工賃」と呼ばれます。
一人で生計を立てることはほぼ不可能な金額です。

なお、令和5年度の数字は計算方式の変更(前年度の「1日当たりの平均利用者数」を分母にする新方式の導入)により前年比で大きく上昇しています。
制度変更による数字の跳ね上がりが含まれている点には留意が必要です。

就労継続支援B型は、障がいのある方が社会参加の一歩を踏み出す場として重要な役割を担っています。
しかし「工賃が低いから福祉サービスを使い続けるしかない」という現実が固定されてしまっているとしたら、それは問題です。


増え続けるB型事業所——「質」の問題が浮上している

もう一つ、見過ごせない問題があります。
B型事業所の「質」をめぐる問題です。

近年、就労継続支援B型事業所の数は急増しています。
その背景に、「特段の知識がなくても運営でき、高収益が実現できる」という謳い文句で安易な開業を勧める動きがあることを、厚生労働省自身が公式に問題視しています。

仕組みを整理すると、B型事業所は利用者1人の利用日数に応じて国保連(国民健康保険団体連合会)から給付費を受け取ります。
利用者さえ集めれば、生産活動の中身がどうであっても給付費が入る——この構造が、質の低い事業所が生き残りやすい土壌をつくっています。

実際にどんな問題が起きているか。
厚生労働省は2025年11月28日、自治体向けに「就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン」を通知しました。
(出典:厚生労働省ガイドライン(PDF)

このガイドラインでは、生産活動と称して行われる不適切な活動の具体例として以下が明記されています。

  • eスポーツ(ゲームプレイ中心)
  • 卓球教室・麻雀教室での手伝い
  • 植物の水やりを1日数回行うだけの活動
  • 「所定の場所にいればよい」というだけの活動

これらは「公費による就労支援の生産活動として適さない可能性がある」と明記されました。

また、自立支援給付費(本来は障がい福祉サービスへの公費)を使って利用者への工賃を補填するなど、会計上の不透明な運営が行われている事業所の存在も指摘されています。

「就労継続支援」の名のもとに、利用者の就労能力の向上につながらない活動をさせながら、給付費だけを受け取る——これは公費の不正利用であり、何より利用者の将来を損なう行為です。


ただし「居場所の問題」も考えなければならない

一方で、この問題には難しい側面もあります。

eスポーツや麻雀が「不適切」と言われることに対し、支援現場からは反論もあります。
「外に出られない、人と関われない、作業が続かない方でも、ゲームを入口に社会参加の一歩を踏み出せた」という声は確かに存在します。

就労継続支援B型は、就労訓練の場であると同時に、社会から孤立しやすい障がいのある方にとっての「居場所」という側面もあります。
「質を問う」と言いながら、その事業所を奪うことで、行き場を完全に失う方が生まれてはいけません。

「就労能力の向上につながるか」と「居場所として機能しているか」——この二つのバランスをどう取るかが、今後の制度設計の核心です。

私は、この問いに対する答えとして「居場所機能」は生活介護など別の制度で保障し、「就労継続支援」は真に就労につながるプロセスを提供する場として質を高めていく方向が正しいと考えています。

板橋区においても、事業所の実態把握と指導を強化し、利用者が「本当に自分の力を伸ばせる場」を選べる環境整備が必要です。


「一般就労か、福祉就労か」という二択からの脱却

これまでの就労支援は、大まかに言えば「一般就労(企業雇用)か福祉就労(就労継続支援)か」という二択でした。

この二択に橋を架けようとする新制度が、就労選択支援です。

2025年10月から全国で施行(本格実施は段階的)されるこの制度では、障がいのある方が就労アセスメントを受け、自分の特性や希望に合った就労の選択肢を専門家と一緒に検討できます。
「どの働き方が自分に合っているか」を丁寧に見極める機会が制度として整備されます。

板橋区では、この制度への準備として就労支援体制の整備が進んでいます。

一方、板橋区が区独自で取り組んでいるのがチャレンジ就労です。
区役所内での就労経験の場を提供し、最長3年間にわたって一般就労に向けた準備をサポートする制度です。
行政が率先して障がい者雇用の場を設け、就労移行を後押しするという姿勢の表れでもあります。


「工賃向上」だけが答えではない

工賃を上げる取り組みは大切です。
しかしそれだけでは不十分だと、私は考えています。

本当に必要なのは、障がいのある方が「やりたい仕事」「得意な仕事」で力を発揮できる環境をつくることではないでしょうか。

「障がい者だから」という理由で最初からB型事業所に誘導されてしまうケースは、今も珍しくありません。
適切なアセスメントなしに「福祉的就労しかない」とされてしまう方が一定数いることは、支援現場でもよく聞く話です。

就労選択支援の仕組みが機能するには、アセスメントを行う機関の質と量を確保することが不可欠です。
板橋区でも、専門的な就労アセスメント体制をどう整えるかが問われています。


企業の側にも変化が求められる

障がい者雇用は「数合わせ」ではありません。

法定雇用率を達成するために「形式的に雇用している」状態では、障がいのある方が力を発揮できる職場にはなりません。

企業が合理的配慮(前回第3回参照)を提供し、個人の特性に合った業務を用意し、職場定着を支援する体制を整えること——それが本当の意味での障がい者雇用です。

板橋区には、障がい者雇用に取り組む区内企業への支援として、就労支援ハンドブックの配布や企業見学支援事業などが用意されています。
(参照:板橋区「障がい者雇用を検討している事業主の方へ」

私はここに加えて、区が「モデル企業」を積極的に可視化し、先進事例を横展開する仕組みが必要だと考えています。


中妻じょうたの立場

私の長男は自閉症・知的障がい3級であり、現在は近所のB型作業所に通っています(第1回参照)。

長男は作業がダントツに早く、主力として欠かせない存在だと作業所から評価していただいています。
一方、一般常識からすると問題と取られる行動をすることもしばしばあり、一般就労をめざすとすると、この特性を理解してくれる企業があるかどうか…と懸念しています。

障がいのある方が「どう稼ぐか」を自分で選べる社会にするために、制度の整備と企業文化の変革を同時に進めること——私はその実現に向けて板橋区から働きかけを続けます。


次回(第5回・最終回)のテーマは「親なき後」に備える——住まいと地域生活の保障です。
知的・精神障がいのある方を持つ親御さんが抱える「自分たちの次」への不安に向き合います。


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