長男が自閉症と診断されたとき、私は政治家ではありませんでした。
当時IT技術者だった私は、長男の障がいを知り、大きく考えを変えました。
「これは、ビジネスではどうにもならない」
「政治でしか、解決できないことがある」
——これが、私を政治の世界へと向かわせた原点です。
この連載「障がいと共に生きる板橋へ」では、障がい当事者の家族でもある私・中妻じょうたが、障がい者政策の現状と課題を5回にわたって書き綴ります。
データと現場の声を重ね合わせながら、板橋区が目指すべき姿を一緒に考えてください。
「なんで政治家になったんですか?」
よくそう聞かれます。
私の長男は自閉スペクトラム症(ASD)、知的障がい3級の診断を受けています。
長男を育てる上でまず感じたのは、「これは、当事者でなくては理解できない」という思いでした。
自閉症、ADHD、アスペルガー症候群などの、いわゆる発達障がい。
知らない人からすると、
「なんという非常識なやつだ」
「親はどういう教育をしてきたのか」
という感想を抱きかねない行動をします。
発達障がいに限らず、政治や行政が障がいに理解がなければ、当事者とその家族は無理解の中で苦しみ続けるしかなくなってしまいます。
「わかっている者」が、政治の側にいなくてはならない。
その思いが、私を議員の道へと押し出しました。
障がい当事者の方々、そしてそのご家族の声を届けること。
それが私の原点であり、政治家をやっている最初の理由です。
それから15年。
確かに制度の改善は進み、あいポートなどのすばらしい施設もできました。
ただ、板橋区もいろいろ新しいことに着手する中で、障がい者支援という、まさに行政でなければできない仕事への感性が薄くなってきていはしないか。
そんなことを感じたもので、この機会に改めて
「障がいとは何か」
「障がい者支援のあるべき姿とは」
を、全5回の連載記事として企画しました。
ぜひ、ご覧ください。
障がいとは何か——まず「言葉」を整理する
「障がい」と一口に言っても、その内実はとても幅広いです。
日本では大きく3種類に分類されています。
身体障がいは、視覚・聴覚・肢体・内部(心臓・腎臓など)の機能に障がいがある状態です。
「身体障害者手帳」が交付されます。
知的障がいは、知的機能の発達に障がいがある状態で、日常生活に一定のサポートが必要です。
「療育手帳」が交付されます(「愛の手帳」と呼ぶ自治体もあります。板橋区もそのひとつです)。
精神障がいは、統合失調症・うつ病・発達障がい・依存症など多様な状態を含みます。
「精神障害者保健福祉手帳」が交付されます。
このほかに、難病(医療費等助成制度の認定者)を加えて支援の対象とする自治体も多く、板橋区もその一つです。
日本の障がい者は何人いるか
厚生労働省が2024年5月に公表した調査(令和4年生活のしづらさなどに関する調査)によれば、障がい者の総数は推計約1164万6000人です。
これは日本の総人口の約9.3%、10人に1人近い数字です。
内訳を見ると、手帳所持者ベースで
- 在宅の身体障がい者:約415万9,000人
- 療育手帳所持者:約114万人
- 精神障害者保健福祉手帳所持者:約120万3,000人
となっています(いずれも在宅者。施設入所・入院中の方を含めるとさらに多くなります)。
なかでも精神障がい者の伸びは顕著で、患者調査ベースでは精神障がいのある人が前回調査から大きく増加しています。
「見えにくい障がい」が増えている——これは板橋区でも同様の傾向が確認されています(第2回で詳述します)。
(出典:厚生労働省「令和4年生活のしづらさなどに関する調査」、内閣府 令和6年版障害者白書)
「医学モデル」から「社会モデル」へ
障がいをどう捉えるかには、大きく2つの考え方があります。
医学モデルは、「障がいは個人の心身の欠損・機能障害である」と見る立場です。
治療・訓練によって「正常」に近づけることを目標とします。
かつての障がい者施策の多くはこの考え方に基づいていました。
社会モデルは、「障がいは社会の側にある障壁によって生じる」と見る立場です。
段差があるから車いすの人が困る。
情報が音声のみだから聴覚障がいのある人が排除される。
「問題は個人ではなく、社会の仕組みにある」という視点です。
いま国際的なスタンダードは、社会モデルに移行しています。
2024年4月に施行された改正障害者差別解消法も、この社会モデルの立場から「合理的配慮」の提供を民間事業者にも義務化しました(詳しくは第3回で取り上げます)。
私が政策を考えるときの基本的な視点も、この社会モデルです。
「この人にできないことがあるとすれば、社会の何が壁になっているか」——その問いを常に持ち続けることが大切だと思っています。
この連載で伝えたいこと
私は板橋区議として、障がい者支援をライフワークの一つに位置づけています。
ただ「支援を充実させよう」と言うだけでは、政策は動きません。
現状のデータを正確に把握し、課題を明確にし、具体的な施策を提案する——その積み重ねが必要です。
この連載では、以下のテーマを順に取り上げます。
- 第2回:板橋区の障がい者数の実態——精神障がい者が5年で約27%増という現実
- 第3回:「合理的配慮」義務化——あなたの職場・店舗は対応できているか
- 第4回:働く・稼ぐ——障がい者雇用の現実と板橋の挑戦
- 第5回:「親なき後」に備える——住まいと地域生活の保障
障がいのある方もない方も、家族も支援者も——誰もが読んで「自分ごと」として考えてもらえる内容を目指します。
ご意見・ご質問はぜひお気軽にお寄せください。
「障がいと共に生きる板橋へ——中妻じょうたの障がい者政策ノート」は全5回の連載です。
次回:【第2回】板橋区の今——障がい者は5年で1割増、精神が急増している