ふるさと納税は人気の制度ですが、板橋区の財政には深刻な影響をもたらしています。
令和7年度、板橋区から他自治体へ流出した税収は約36億1,000万円
この数字は5年前の2倍以上に膨らんでいます。


ふるさと納税とは何か——制度の仕組みと成り立ち

「ふるさと納税」は、自分が選んだ自治体に寄付をすると、2,000円の自己負担を超えた分が所得税・住民税から控除される制度です。

名称は「納税」ですが、実態は自治体への寄付です。
寄付した人は返礼品(食品・体験・工芸品など)を受け取ることができます。

仕組みを整理するとこうなります。

  • 寄付する側:2,000円の負担で、寄付額に応じた返礼品が受け取れる
  • 寄付を受けた自治体:寄付金収入を得て、返礼品コストを差し引いた分が実質的な収入になる
  • 寄付した人が住む自治体:住民税が控除される分だけ税収が減る

問題は最後の点です。
板橋区民が他の自治体に寄付するほど、板橋区の税収が減ります。

制度はいつ、誰が作ったのか

ふるさと納税は2008年5月にスタートしました。
発案者とされるのは元福井県知事の西川一誠氏で、2006年10月に「故郷寄附金控除」の導入を提言しました。

制度化を主導したのは、当時総務大臣だった菅義偉氏(後の内閣総理大臣)です。
2007年6月に総務省が「ふるさと納税研究会」を設置し、約5か月・9回の議論を経て法制化されました。

制度創設の目的は、人口減少による税収減への対応地方と大都市の格差是正でした。
しかし、その後の展開は制度設計者の意図とは異なる方向にも進みつつあります。


全国の規模——1兆円を超えた「巨大制度」

制度開始から17年、ふるさと納税の規模は想像を超えるほど膨らみました。

年度 受入額 受入件数
2023年度 約1兆1,175億円 約5,894万件
2024年度 1兆2,728億円 約5,879万件

2024年度の全国受入額は1兆2,728億円(前年度比13.9%増)で、過去最高を更新しました。
控除適用者数は1,080万人で、制度開始以来初めて1,000万人を超えました。

(出典:総務省ふるさと納税ポータルサイト、税理士法人山田&パートナーズ「令和6年度現況調査解説」 https://www.yamada-partners.jp/tax-topics/r070804

受入額ランキング上位(2024年度)

多額の寄付を集めているのは、魅力的な返礼品を持つ地方自治体です。

  1. 兵庫県宝塚市 ── 257億円(うち約254億円は個人2名による市立病院への大口寄付)
  2. 北海道白糠町 ── 212億円(サーモン・いくら・ホタテなど海産物が強み)
  3. 大阪府泉佐野市 ── 182億円
  4. 宮崎県都城市 ── 肉・米で常連上位
  5. 宮城県気仙沼市 ── 初の100億円突破

2024年度は13の自治体が100億円超を達成しました(前年は10自治体)。
「肉」「魚介・海産物」など高単価で人気の食品が、各自治体の順位を大きく左右しています。

(出典:ふるさと納税ガイド「2025年最新ランキング」 https://furu-sato.com/magazine/42160/


板橋区の「流出超過額」5年間の推移

板橋区が受け取る寄付収入と、区民が他自治体に寄付することで生じる住民税の控除額を差し引いた「流出超過額(減収額)」は、下のグラフのとおり一貫して拡大し続けています。

板橋区のふるさと納税による減収額(流出超過額)の推移

令和3年度の17億3,000万円から、令和7年度には36億1,000万円へ。
わずか5年で2倍超に膨らみました。
区民サービスを維持するための財源が、毎年これだけ他自治体に流れている計算になります。

(出典:板橋区公式ホームページ「板橋区への寄付のご案内について」 https://www.city.itabashi.tokyo.jp/tetsuduki/kifu/1039142/index.html


東京23区全体でも深刻——合計930億円超の流出

板橋区だけの問題ではありません。
東京都全体の2024年度の住民税控除額(流出額)は1,899億円(前年比12.5%増)に達しました。

東京23区に絞った流出額の合計は年930億円超です。

なぜ都市部が一方的に損をするのか

ここに制度の根本的な矛盾があります。

地方交付税の不交付団体である東京23区は、ふるさと納税で税収が流出しても国から補填を受けられません
流出した税収は、そのまま全額がマイナスになります。

仮に世田谷区が交付団体であれば、流出額の影響は約28億円で済む試算がありますが、現実の流出額は初めて100億円を超えました。

練馬区では2024年度の予算編成で、財源不足を補うために基金を取り崩すという事態も起きています。

一方で東京23区のうち2024年度時点で20区が返礼品制度に参入しており(2019年度は12区)、自衛策として返礼品の拡充を進める区が増えています。

(出典:日本経済新聞「東京都2024年度流出額1899億円」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC316ED0R30C24A7000000/ 、東京新聞「23区流出826億円」 https://www.tokyo-np.co.jp/article/267015


板橋区は「過度な返礼品競争」には与しない

こうした状況を踏まえて、板橋区も近年、返礼品の拡充に取り組み始めています。
令和7年12月には、製本体験キット・伝統工芸品(江戸筆)・飲食店の冷凍チャーシュー炒飯など、板橋区の地域資源を活かした返礼品を新たに追加しました。

ただし板橋区は基本的な姿勢として、「過度な返礼品競争に与することなく、区のプロモーションにつながる事業、または社会的意義のある事業を対象に」 寄付を募る方針を取っています。

(出典:板橋区公式ホームページ「ふるさと納税よくある質問」 https://www.city.itabashi.tokyo.jp/tetsuduki/kifu/1056785.html

板橋区の現在の返礼品(一例)

  • 製本キット「KURUMI」シリーズ(板橋区の製本文化を体験)
  • 江戸筆セット(仮名筆・毛筆など、区内工房の伝統工芸品)
  • いたばし野菜のパウンドケーキ(区産野菜100%使用)
  • 高島平福祉園分場「3時cafe」のクッキー・フロランタン(障がい者施設の手作り品)
  • いたばし花火大会 有料指定席 プライムシート(イベント型)
  • 保護猫支援コーヒーセットなど

制度の課題——3つの根本問題

① 高所得者ほど得をする「逆進性」

ふるさと納税の控除上限額は所得が高いほど大きくなります。
世田谷区が公表したデータでは、同区内の寄付総額のうち4割が年収2,000万円超の住民によるものでした。

低所得・中所得層はそもそも控除上限が低く、恩恵が限られます。
高所得者ほど大きなリターンを得られるという構造は、税の公平性の観点から大きな問題です。

② 返礼品コストの問題

返礼品の調達費・送料・ポータルサイトへの手数料を合計すると、寄付額の50%近くに達するケースもあります。
実際に地方自治体の財源として残る額は、寄付額の半分以下になることも珍しくありません。

「地方のために寄付しているつもり」が、実は仲介業者の利益になっている側面もあります。

③ 制度趣旨の形骸化

ふるさと納税の本来の趣旨は「自らの意思でふるさとや縁のある地域を支援する」ことでした。
しかし実態としては、返礼品の豪華さポータルサイトのポイント還元率で寄付先を選ぶ行動が広がっており、制度の趣旨から大きく離れています。


2025年以降の制度改正——転換点を迎えた制度

ポイント付与の全面禁止(2025年10月〜)

2025年10月1日から、仲介ポータルサイトによるポイント付与が全面禁止されました。
「楽天ふるさと納税」などで付与されていたサイト独自ポイントが対象です(クレジットカードの通常ポイントは除外)。

この改正により、ポイント目当ての寄付は大幅に減少すると見られています。
板橋区はそもそもポイント競争を武器にしてこなかったため、相対的に「返礼品の中身で勝負する」フェーズへの移行が追い風になる可能性があります。

高額所得者への控除上限設定(2025年12月〜与党税制大綱)

2025年12月発表の与党税制改正大綱では、課税所得1億円以上の高所得者を対象に、住民税の特例控除額に193万円の上限を設けることが盛り込まれました。

逆進性の是正に向けた一歩ではありますが、対象が最富裕層に限られており、中所得層との格差解消には不十分という見方もあります。

(出典:税理士法人山田&パートナーズ「ポイント禁止改正解説」 https://www.yamada-partners.jp/tax-topics/r070929


特別区長会の立場——「廃止を含む抜本的見直し」

東京23区の区長会(特別区長会)は国に対して、ふるさと納税について「廃止を含む抜本的な見直しを行うべきだ」 との要望を取りまとめています。

流出額の補填制度の創設、控除上限の大幅引き下げ、返礼品コスト規制の強化——複数の改善策が議論されていますが、地方側(受入自治体)との利害対立もあり、抜本改革の実現は容易ではありません。


中妻じょうたの考え

ふるさと納税は、地域の魅力を全国に届け、地方の財源を支えるという面では一定の役割を果たしてきました。
しかし現状の設計では、板橋区のような都市型自治体が一方的に損をする構造になっています。

私は以下の点を主張します。

第一に、国への制度改善要求を継続すること。
2025年のポイント禁止・高所得者控除上限の設定は第一歩ですが、不十分です。
都市部の財源流出を補填する仕組みを国が整えるよう、声を上げ続けます。

第二に、板橋区自身の返礼品の充実を進めること。
「過度な競争はしない」という姿勢は尊重しつつも、板橋区の文化・産業・福祉の魅力を全国に伝える返礼品をさらに磨くことは、PRとしても重要です。
障がい者施設の手作り品のように、社会的意義と地域のPRが両立する板橋らしい発信を強化すべきです。

第三に、住民への情報発信を続けること。
毎年36億円という財源が失われ続ける現状を、住民の皆さんに正確に知っていただくことが、制度改革の世論形成につながります。

ご意見・ご感想はぜひお寄せください。

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