板橋区の学校や関係機関のうち、3割が「ヤングケアラーらしき子どもはいるが、実態を把握できていない」と答えています。
さらに、身近にいるかどうか「わからない」と答えた機関の8割近くが、その理由を「家族内のことで問題が表に出にくいから」としています。

子どもが声を上げるのを待つだけでは、支援は届きません。
前回は、板橋区の子どもたち自身への調査から見えた「10人に1人が家族の世話をしている」という現実をお伝えしました。

今回は、その子どもたちを日々見ている学校・関係機関の側に何が見えていて、何が見えていないのかを掘り下げます。

関係機関調査が映す「気づけない構造」

板橋区が令和5年に実施した実態調査には、児童生徒への調査と並んで、学校教職員・スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー・民生児童委員など526件からの回答による「関係機関調査」が含まれています。

まず「ヤングケアラー」という言葉の認知度です。
板橋区ヤングケアラーに関する実態調査報告書によれば、「ヤングケアラー」の認知度については「言葉を知っており、意識して対応している」が43.9%、「言葉は知っているが、特別な対応をしていない」が42.4%、「言葉は聞いたことあるが、具体的には知らない」が10.3%となっています。

言葉を知っているだけでは足りません。
問題は、その先の「気づけているか」です。

同報告書は、ヤングケアラーと思われる子どもの実態の把握について「該当する子どもはいない(これまでもいなかった)」が36.8%、「把握している」が32.0%、「ヤングケアラーと思われる子どもはいるが、その実態は把握していない」が30.7%と報告しています。
つまり回答した機関の実に3割が、「いると思うが分からない」という状態にあるのです。

身近にいるかどうかという設問でも、同様の傾向が見られます。
貴校・貴所・身近にヤングケアラーと思われる(可能性含めて)子どもについては、「わからない」が45.6%、「いない」が29.1%、「いる」が23.6%となっています。
半数近くの現場が、判断さえつかないと答えているのです。

なぜ「わからない」のか——家庭という壁

では、なぜ現場は「わからない」のでしょうか。

報告書は、その理由についても尋ねています。
「わからない」と回答した理由については、「家族内のことで問題が表に出にくく、実態の把握が難しい」が78.8%となっています。

学校や地域の見守りには限界があります。
家庭の中で起きていることは、本人が話さない限り、外からはなかなか見えません。
これは学校や先生の努力不足ではなく、家庭というプライベートな空間の性質そのものに根ざした構造的な課題だと、私は捉えています。

現場が求めているもの

一方で、関係機関自身は何を必要と考えているのでしょうか。

報告書では、ヤングケアラーを支援するために必要だと思うこととして、「大人がヤングケアラーについて知ること」が78.1%、「子どもが大人に相談しやすい環境」が70.5%、「子ども自身がヤングケアラーについて知ること」が68.4%となっています。

つまり現場が求めているのは、特別な専門知識よりもまず「大人の理解」と「相談しやすい環境づくり」なのです。

板橋区はすでに動いている

「発見の壁」に対して、板橋区が何もしていないわけではありません。
現状の取り組みを整理します。

専門職による訪問支援

板橋区教育支援センターは、区立幼稚園・区立小中学校の児童生徒を対象に、スクールソーシャルワーカー(SSW)による訪問型支援を行っています。
生活指導上の課題について、関係機関と連携しながら支援にあたる体制です。

近年は、SSWの対応事案の進行管理・統括を担う「SSW支援員」も新たに配置され、体制強化が図られています。

これに加えて令和6年度からは、NPOカタリバのヤングケアラーアドバイザーを設置しています。
関係機関からの相談対応、各家庭に合わせた対応方針の検討・助言、連携先へのつなぎ、区職員・関係機関向けの研修を担っており、官民連携による専門性の補強が進んでいます。

多職種が情報を持ち寄る仕組み

板橋区は要保護児童対策地域協議会(要対協)を設置しており、子ども家庭総合支援センター支援課内に専属組織「地域連携推進係」を置いています。

会議は「代表者会議」「実務者会議」「個別ケース検討会議」の三層構造です。
学校・保育所・幼稚園・医療機関・警察などの実務者が、支援対象児童の情報共有や協議を行う仕組みがすでにあります。

板橋区は実務者会議について、関係機関が一堂に会する「集合型」に加え、現場に出向く「アウトリーチ(訪問)型」も導入し、概ね3か月に1度を目安に開催しています。

気づきを促すガイドライン・啓発

区はヤングケアラー支援に関するガイドラインを作成し、支援ケース会議などの運用にもつなげています。
当事者である子ども自身への啓発にも力を入れており、小学生向け「ぼくってヤングケアラー?」、中学生以上向け「わたしってヤングケアラーかな?」という啓発動画とチラシを作成しています。

なお足りていないもの

一定の体制はすでにあります。
その上で、私が課題だと考える点は次の3つです。

第一に、成果の「見える化」です。
SSWの配置人数や1人あたりの担当校数、カタリバアドバイザー事業の相談件数・支援ケース数といった定量的な指標は、現時点で公開資料からはすぐに確認できません。
体制があることと、それが十分に機能しているかは分けて考える必要があります。
これは連載第3回で、区への確認を含めて検証します。

第二に、会議の頻度です。
要対協の実務者会議は「概ね3か月に1度」が目安とされています。
家庭内の状況は日々変化します。
早期発見・早期対応の観点から、この頻度が十分かどうかは検討の余地があると考えます。

第三に、学校現場での「気づいた後」の具体的な手順です。
ガイドラインや啓発動画は「気づいてもらう」入り口として重要です。
しかし、担任やSCが違和感に気づいたときに、誰に・どう報告し・どう支援につなぐのかという学校向けの実務的な手順が、住民に見える形では十分に示されていません。
現場任せにしない対応指針を、より具体的に整備していくべきだと考えます。

住民のみなさんへ

ヤングケアラーの発見は、学校や行政だけの仕事ではありません。
近所の子ども、親戚の子ども、通学路ですれ違う子どもの様子に、少し目を向けてみてください。

「最近元気がない」「妹や弟の送り迎えをよくしている」——そうした小さな違和感が、支援につながる最初の一歩になることがあります。
気になることがあれば、板橋区子どもなんでも相談(0120-925-610、通話料無料・24時間365日受付)や学校に相談することもできます。

もちろん、私でよろしければお話を聞かせていただきます。

お問い合わせ

次回は、板橋区とNPOカタリバの連携によるヤングケアラー支援の取り組みを、相談件数や実績も含めて検証します。
引き続き、このテーマを追っていきます。


出典:
板橋区ヤングケアラーに関する実態調査報告書(令和5年9月)
板橋区「ヤングケアラーについて」(相談窓口・啓発動画)
板橋区要保護児童対策地域協議会
板橋区「会計年度任用職員(スクールソーシャルワーカー)の募集」

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